乳幼児・児童期の発達研究の動向と展望
わが国の教育心理学の研究動向と展望
乳幼児・児童期の発達研究の動向と展望
乳幼児・児童期の発達研究の動向と展望
―縦断研究の発展に着目して―
著者:藤澤 啓子
The Annual Report of Educational Psychology in Japan
2025, Vol. 64, 1-16
2023年7月から2024年6月までの1年間に、日本教育心理学会第66回総会のポスター発表と国内学術雑誌4誌に掲載された乳幼児・児童期の発達研究の動向を、非認知(社会情緒的)能力の視点から概観し、今後の課題と展望を提示したものです 。量的分析による研究動向
総会発表(29件)と雑誌掲載論文(18件)の量的分析の結果、研究領域は総会・論文ともに「養育者・保育者」領域と「社会性」領域が多く、両者合わせて全体の約66.7%を占め、非認知能力やそれを支える環境への関心の高まりを示しています 。研究方法としては、総会・論文ともに「質問紙(調査)」が最も多く(57.1%〜65.0%)、一方で「観察」や「実験」は少ない傾向が確認されました 。また、児童期前期(小学校1・2年生)の子どもを対象とした研究が少ないことが、今後の課題として指摘されています 。
非認知能力の視点からの検討
雑誌論文の具体的な内容を、「自己に関わる心の力」「社会性に関わる心の力」「自己と社会性の発達を支える環境」という3つの観点から検討しました 。
自己に関わる心の力: 児童期後期の学習意欲・動機づけに関する研究が紹介され、内発的将来目標(自己成長や他者との関係構築)が積極的な学習行動に正に関連し、マスタリー目標(学習による習得)を持つ児童が挑戦的な課題を好む傾向が示されました 。これは、「スキルがスキルを生む」という非認知能力間の関連性を示す知見です 。
社会性に関わる心の力: 幼児の互恵性に基づく「助けない」行動の認知や、児童期における「見守る」「待つ」といった非表出的向社会的行動の認識発達に関する研究が紹介され、日本の文化的背景も踏まえた考察が行われました 。
環境: 養育者の援助行動や、保育者の自己決定を尊重する関わりが、子どもの非認知能力の発達に影響を与えることが示唆されました 。
今後の展望
今後の研究においては、個々の非認知能力の発達プロセスや、非認知能力同士の関連性を、より細やかに、そして縦断的な視点から明らかにすることの重要性が強調されています 。
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